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操作変数法を徹底解説!見せかけの相関にだまされないための強力な武器

見せかけの相関に惑わされていないだろうか?世の中には、一見すると関係がありそうに見えて、実はそうではない現象がたくさん存在する。例えば、「アイスクリームが売れるとプールの事故が増える」という話を聞いたことはないだろうか?これは、アイスクリームとプールの事故に直接的な因果関係があるわけではなく、「気温が高い」という共通の原因がそれぞれに影響しているために起こる見せかけの相関である。

このような誤った因果関係の解釈は、私たちの意思決定を誤らせる可能性がある。しかし、ご安心いただきたい。統計学には、このような見せかけの相関を見破り、真の因果関係を特定するための強力なツールがある。それが操作変数法だ。

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目次

操作変数法の概略

操作変数法(Instrumental Variable Method, IV)は、内生性(Endogeneity)の問題に対処し、真の因果効果を推定するための統計的手法である。内生性とは、説明変数と誤差項の間に相関がある状態を指す。この相関があると、通常の最小二乗法(OLS)では、説明変数の効果を正しく推定できない。

内生性の原因はいくつかあるが、代表的なものとしては以下の3つが挙げられる。

  • 欠落変数バイアス(Omitted Variable Bias): 重要な変数がモデルから抜けているために、説明変数と誤差項が相関してしまうケース。先ほどのアイスクリームの例で言えば、「気温」が欠落変数にあたる。
  • 同時性(Simultaneity): 説明変数と目的変数が互いに影響し合っているケース。例えば、供給と需要の関係のように、価格が需要に影響し、需要が価格に影響するといった場合である。
  • 測定誤差(Measurement Error): 説明変数の測定に誤差が含まれるケース。

操作変数法では、これらの問題に対処するために、以下の条件を満たす「操作変数(Instrumental Variable, IV)」と呼ばれる新たな変数を使用する。

  • 関連性(Relevance): 操作変数は、内生性のある説明変数と相関があること。
  • 外生性(Exogeneity): 操作変数は、目的変数とは直接相関がなく、内生性のある説明変数を介してのみ目的変数に影響を与えること。

操作変数は、内生性のある説明変数の「代理」として機能し、その変数を通してのみ目的変数に影響を与えるため、内生性によるバイアスを取り除き、より正確な因果効果を推定することが可能となる。

操作変数法の活用場面

操作変数法は、経済学、社会学、疫学、政策評価など、幅広い分野で活用されている。以下に具体的な活用場面をいくつか示す。

  • 教育と賃金: 教育年数が賃金に与える影響を分析する際、個人の能力や家庭環境などが教育年数と賃金の双方に影響を与えるため、内生性が生じる。この場合、個人の出生月や出生地など、教育年数に影響を与えるが賃金には直接影響しない変数を操作変数として利用することが考えられる。
  • 医療介入の効果: 特定の医療介入が健康状態に与える影響を評価する際、健康意識の高い人が介入を受けやすいといった自己選択バイアスが生じることがある。この場合、医療介入へのアクセスをランダムに割り当てるような、政策的な介入や地理的要因などを操作変数として利用することが検討される。
  • 企業の投資と生産性: 企業の投資が生産性に与える影響を分析する際、企業の生産性が高いために投資が増えるという同時性の問題が生じることがある。この場合、金融政策や税制優遇措置など、企業の投資には影響を与えるが生産性には直接影響しない変数を操作変数として利用することが考えられる。

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具体例:教育と賃金

ここでは、「教育年数が賃金に与える因果効果」を推定する例を考えてみよう。

通常、教育年数が長いほど賃金が高い傾向にあるが、これは教育が賃金を上げるという因果関係だけでなく、能力の高い人がより多くの教育を受ける傾向がある、といった「能力バイアス」が関係している可能性がある。つまり、能力が教育年数と賃金の双方に影響を与えるため、教育年数と誤差項の間に相関が生じ、内生性の問題が発生する。

この内生性の問題に対処するために、操作変数法を適用する。今回は、操作変数として「出生地が大学の近くかどうか」という変数を使用することを考える。

  • 関連性: 出生地が大学の近くであれば、大学への進学が容易になり、結果として教育年数が長くなる傾向があると考えられる。
  • 外生性: 出生地が大学の近くであること自体が、個人の賃金に直接影響を与えることはないと考えられる。賃金への影響は、出生地が大学の近くであることによって教育年数が伸びた場合にのみ生じると仮定する。

この操作変数を使って、教育年数が賃金に与える真の因果効果を推定する。

R 計算例

Rを使った操作変数法の計算例を見てみよう。ここでは、AERパッケージのivreg()関数を使用する。

まず、サンプルデータを作成する。

R スクリプト例:

# 必要なパッケージをインストール(まだインストールしていない場合)
# install.packages("AER")

# パッケージの読み込み
library(AER)

# サンプルデータの作成
set.seed(123)
n <- 1000

# 潜在的な能力(観測できない変数)
ability <- rnorm(n, mean = 0, sd = 1)

# 操作変数:出生地が大学の近くかどうか (0:遠い, 1:近い)
near_university <- rbinom(n, 1, 0.5)

# 教育年数(abilityとnear_universityに影響される)
# abilityが高いほど、near_universityが1だと教育年数が長くなる傾向
education <- round(10 + 2 * ability + 2 * near_university + rnorm(n, mean = 0, sd = 1))
education <- pmax(0, education) # 教育年数が負にならないように調整

# 賃金(educationとabilityに影響される)
# abilityが高いほど、educationが高いほど賃金も高くなるが、abilityは誤差項に含まれる
wage <- round(5 + 0.8 * education + 1.5 * ability + rnorm(n, mean = 0, sd = 2))

# データフレームの作成
data_df <- data.frame(wage, education, near_university, ability)

# OLS(通常の最小二乗法)での推定
# abilityが欠落変数として誤差項に含まれるため、内生性が発生
ols_model <- lm(wage ~ education, data = data_df)
summary(ols_model)

# 操作変数法での推定
# educationが内生変数、near_universityが操作変数
iv_model <- ivreg(wage ~ education | near_university, data = data_df)
summary(iv_model)

実行結果:

> # OLS(通常の最小二乗法)での推定
> # abilityが欠落変数として誤差項に含まれるため、内生性が発生
> ols_model <- lm(wage ~ education, data = data_df)
> summary(ols_model)

Call:
lm(formula = wage ~ education, data = data_df)

Residuals:
    Min      1Q  Median      3Q     Max 
-6.5172 -1.5172  0.0304  1.4828  6.9018 

Coefficients:
            Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)    
(Intercept) -0.38751    0.31918  -1.214    0.225    
education    1.29047    0.02833  45.558   <2e-16 ***
---
Signif. codes:  0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1

Residual standard error: 2.185 on 998 degrees of freedom
Multiple R-squared:  0.6753,    Adjusted R-squared:  0.675 
F-statistic:  2076 on 1 and 998 DF,  p-value: < 2.2e-16

> # 操作変数法での推定
> # educationが内生変数、near_universityが操作変数
> iv_model <- ivreg(wage ~ education | near_university, data = data_df)
> summary(iv_model)

Call:
ivreg(formula = wage ~ education | near_university, data = data_df)

Residuals:
     Min       1Q   Median       3Q      Max 
-7.30693 -1.68342  0.06717  1.56598  8.06478 

Coefficients:
            Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)    
(Intercept)  4.17983    0.78188   5.346 1.12e-07 ***
education    0.87530    0.07073  12.374  < 2e-16 ***
---
Signif. codes:  0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1

Residual standard error: 2.409 on 998 degrees of freedom
Multiple R-Squared: 0.6054,     Adjusted R-squared: 0.605 
Wald test: 153.1 on 1 and 998 DF,  p-value: < 2.2e-16 

> 

結果解釈

上記のRコードを実行すると、ols_modeliv_modelの2つの結果が出力される。

OLSモデルの結果(一部抜粋):

Coefficients:
            Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)    
(Intercept) -0.38751    0.31918  -1.214    0.225    
education    1.29047    0.02833  45.558   <2e-16 ***

OLSモデルでは、educationの係数が約 1.29 と推定された。これは、教育年数が1年増えるごとに賃金が約 1.29 単位(例:1 単位 100 万円とすると 129 万円)増加することを示唆している。しかし、このOLSの推定値には能力バイアスが含まれている可能性がある。つまり、教育年数が長い人がもともと能力が高いために賃金が高いという側面が、この係数に上乗せされている可能性があるのだ。

操作変数法(IV)モデルの結果(一部抜粋):

Coefficients:
            Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)    
(Intercept)  4.17983    0.78188   5.346 1.12e-07 ***
education    0.87530    0.07073  12.374  < 2e-16 ***

操作変数法を用いたIVモデルでは、educationの係数が約 0.88 と推定された。この値は、OLSの結果(1.29)よりも小さくなっている。これは、操作変数法が能力バイアスを取り除き、教育年数が賃金に与える真の因果効果(約0.88)をより正確に推定できている可能性を示している。つまり、能力による影響を排除した上で、教育年数が1年増えることによる賃金の上昇効果が約 0.88 単位(例:1 単位 100 万円とすると 88 万円)である、と解釈できる。

このように、OLSでは見せかけの相関(能力と教育年数の相関)によって係数が過大評価されていた可能性があったが、操作変数法を用いることで、より厳密な因果関係を推定することが可能となる。

まとめ

操作変数法は、統計分析における「内生性」という厄介な問題に対処し、見せかけの相関に惑わされずに真の因果効果を特定するための非常に強力な手法である。適切な操作変数を見つけることは容易ではないが、この手法を使いこなすことで、より信頼性の高い分析結果を得ることができる。

複雑な社会現象や経済現象の裏に隠された真の因果関係を解明するために、操作変数法は今後ますます重要な役割を果たすだろう。もしあなたが分析の際に「本当にこれで因果関係を言えるのか?」と疑問に感じたら、操作変数法の活用を検討してみてはいかがだろうか。

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  • どうにかして標本平均を母平均に近づけられないか?
第2章:研究目的をどれだけ明確にできるのかが重要
  • データさえあれば解析でどうにかなる、という考え方は間違い
  • 何を明らかにしたいのか? という研究目的が重要
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この記事を書いた人

統計 ER ブログ執筆者

元疫学研究者

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