本記事は前回の記事(有意差なしと同等性は異なる、をテーマにした記事)の続編である。
1. はじめに:「有意差なし=同じ」と言えないなら、何を示せばよいのか
ある日の研究室での会話である。
後輩「先生、新しい薬を標準薬と比べたら、有意差なしでした。つまり、同じくらい効くということで、論文に書いていいですよね?」
先輩「前回話したとおり、それは言えないんだ。」
後輩「でも、この新薬は副作用が少ないし、値段も安いんです。『標準薬より少しくらい劣っても、メリットが大きいなら使いたい』という場面は多いと思うんです。それを統計できちんと示す方法はないんですか?」
先輩「ある。それが非劣性(ひれっせい)という考え方だ。」
この記事を読むと、次のことがわかる。
- 「有意差なし」と「非劣性」は、何を示そうとしているかが根本的に違うこと
- 非劣性は「ここまで劣るのは許す」というラインを先に決めること
- 非劣性は「差がゼロ」を示すことではなく、「少しなら劣っていてもよい」を示すものであること
- 非劣性の判定は、信頼区間の下限で行うこと(式は1つだけ使う)
- 「有意に劣っているのに、非劣性は成立する」という一見矛盾した結果が起こる理由
2. 前回のおさらい:有意差なしは「ピンぼけ写真」
前回の要点は1つだけである。「有意差なし」は、「差がないことが示された」という意味ではない。「差があるとも、ないとも、はっきり言えなかった」という意味である。
これを写真に例えてみよう。ピンぼけ写真には、被写体の細かい特徴が写らない。そのぼやけた写真を見て「この2人の顔は同じだ」とは言えない。「違いが見えないこと」と「違いがないこと」は別のことである。
この例えでわかること/限界
違いが見えない理由が「本当に同じだから」とは限らない点がわかる。一方で、写真のピンぼけは目で見てすぐわかるが、臨床試験の「ピンぼけ」(症例数が少ないことによる精度の低さ)は、結果の数字だけを見てもわかりにくい。また、写真は撮り直せるが、臨床試験は簡単にはやり直せない。
※コラム:検出力・第2種の過誤とは?
検出力とは、本当に差があるとき、それを「差がある」と見つけられる確率のことである。写真でいえば、ピントの合わせやすさにあたる。症例数が少ないと検出力は低くなり、ピンぼけ写真になりやすい。本当に差があるのに「差がある」と言えない失敗を、第2種の過誤という。有意差なしの結果を読むときは、検出力が足りていたかどうかを必ず気にする必要がある。
では、「同じくらい」「少し劣るくらいなら許せる」ということを、正しく示すにはどうすればよいのか。ここから非劣性の話に入る。
3. 非劣性とは何か
3-1. 3つの試験:優越性・同等性・非劣性
臨床試験は、示したいことによって3種類に整理される(国際的なガイドラインであるICH E9などで整理されている)。
| 試験の種類 | 示したいこと | ラインの置き方 |
|---|---|---|
| 優越性試験 | 新治療のほうが優れている | 「差がゼロ」のラインを越えたい |
| 同等性試験 | 新治療と標準治療が同じくらい | 上にも下にも許容ラインを置く(両側) |
| 非劣性試験 | 新治療が劣っていない | 下側にだけ許容ラインを置く(片側) |
※コラム:優越性・同等性・非劣性とは?
優越性は「勝っている」、同等性は「引き分け(上にも下にも離れていない)」、非劣性は「負けていない(多少の負けは許す)」と覚えるとよい。この記事の主役は3つ目の非劣性である。同等性は前回の記事の話題でもあり、非劣性と似ているが、「上側にも許容ラインがある」という点が違う。
3-2. 非劣性を日常に例えると「通勤ルート」
新しい通勤ルートを考える。標準ルートより、10分までなら遅れてもよい。その代わり、運賃が安く、電車もすいている。この場合、私たちは「新ルートは標準ルートと比べて、10分を超えては遅れない」ことを確かめたい。これが非劣性の考え方である。
この例えでわかること/限界
「どこまでの遅れなら許すか」を先に決めてから判断する、という非劣性の本質がわかる。一方で、通勤時間は「分」という誰もが納得する単位で測れるが、臨床試験では「何%まで劣ってよいか」の線引きが難しい。この線引きが非劣性試験の最大の論点であり、第6節で扱う。
※コラム:「優越性」という言葉のズレについて
優越性という言葉は、本来は「臨床的に意味のある差が認められる」場合に使われていたはずである。ところが現在では、「差がゼロではないことが統計学的に示された」だけでも、優越性と呼ぶことが定着している。古い記載や、厳密性を重視する古典的な教科書では、このようなズレがありうることを頭の片隅に置いておくとよい。丹後俊郎先生の著作(参考文献8)を読むと、この点がよくわかる。
4. 核心:同じ「検定」でも、見ているラインが違う
有意差の検定(優越性の検定)と非劣性の検定は、どちらも「ライン」を越えたかどうかを調べるという点では同じである。違うのはラインの位置である。
- 優越性:合格ラインは「差ゼロ」の位置にある
- 非劣性:合格ラインは「許容できる最大の劣り」の位置にある
言葉でもう少し丁寧に書くと、仮説の立て方が次のように違う。
- 優越性の検定:「差はゼロである」という仮説を崩せるかを調べる
- 非劣性の検定:「新治療は標準治療よりも、許容範囲を超えて劣っている」という仮説を崩せるかを調べる
よくある勘違い:非劣性は「差がゼロ」を示すことではない
非劣性を「新治療と標準治療に差がないこと(差がゼロ)を示す方法」だと思っている人は多い。しかし、差がまったくないこと(差がゼロ)は、統計学的には示せない。同等性試験でも、上下に許容範囲を置く。非劣性が言っているのは、「差がゼロでなくてもよい。劣っていても、許容範囲(マージン)の内側なら合格」ということである。
95%信頼区間で言い換えると、次のようになる。信頼区間の下限がマージンより上にありさえすれば、区間が0より右(プラス)でも、0をまたいでいても、少しマイナス側にあっても、非劣性は成立する。
- 新治療が有意に優れている(優越である)→ 非劣性も成立する
- 有意差はないが、点推定値がプラスまたはマイナスに少しずれている(差はゼロではない)→ 下限がマージンより上なら成立する
- 信頼区間が少しマイナス側にある(ちょっとだけ劣っている)→ 下限がマージンより上なら、有意に劣っていても成立する
つまり、「差はゼロである」という結論は、非劣性からは出てこない。非劣性から出てくる結論は「最悪でも、マージンを超えては劣らない」だけである。通勤ルートで言えば、「10分以内の遅れまでなら許す」という判断であり、「到着時間がぴったり同じ」という話ではない。
※コラム:帰無仮説とは?
帰無仮説とは、「本当は〇〇である」とあえて仮定し、データがその仮定と合わないことを示すために置く仮説である。裁判にたとえると「被告は無罪である」という出発点にあたる。有罪(=帰無仮説が棄却される)を示すには、それなりの証拠が必要になる。優越性と非劣性では、この出発点が違う。優越性は「差はゼロ」、非劣性は「許容範囲を超えて劣る」が出発点である。
この例えでわかること/限界
「無罪」は「潔白の証明」ではない、という点が、「有意差なし」は「差がない証明」ではない、という点と重なる。一方で、裁判の出発点は「無罪」に決まっているが、検定の出発点は目的に応じて選べる。優越性と非劣性で出発点が違うのは、そのためである。
※コラム:信頼区間とは?
新治療と標準治療の「本当の差」(これを母数という)は、私たちには未知だが、決まった1つの値である。この母数を含む確率が95%になるように作った範囲の一つが95%信頼区間である。動くのは母数ではなく、データから計算される区間のほうだ。同じ試験を何度も繰り返して区間を作れば、そのうちの約95%の区間が本当の差を含む。実務では「この区間の外側にある値は、今回のデータとあまり折り合いがよくない値」と読むと安全である。
判定の式は1つだけ
非劣性の判定は、次の1つの式で言い表せる。この式が言っていることは「信頼区間の左端(下限)が、許容ラインより右側にあれば、非劣性である」ということである。
差の95%信頼区間の下限 > −Δ ならば、非劣性が示された
式の中の記号を1つずつ説明する。
- 差:新治療の成績から標準治療の成績を引いた値(新治療 − 標準治療)。奏効率のように「大きいほど良い指標」を前提としている。差が0より小さければ、新治療のほうが劣る。
- 下限:信頼区間の下側(左側)の端。「最悪の場合、どのくらい劣る可能性があるか」を表す。
- Δ(デルタ):非劣性マージン。「ここまでは劣ってもよい」という許容幅で、たとえば10%のように正の数で決める。
- −Δ:許容できる最大の劣りの位置。ここより右側に信頼区間がおさまれば、非劣性と判断する。
つまりこの式は、「最悪の場合でも、許容できる劣りの範囲内におさまっている」ことを確認しているだけである。
※コラム:非劣性マージン(Δ)とは?
非劣性マージンは、「これ以上劣るなら新治療は使えない」という限界線である。通勤ルートの例えでは「10分」にあたる。この線の位置をどこに引くかで、非劣性が成り立ちやすいかどうかが大きく変わる。線は試験を始める前に決めておく必要がある。
この例えでわかること/限界(合格ラインの例え)
優越性の合格ラインは「0」、非劣性の合格ラインは「−Δ」である。ラインを下げたぶん、非劣性のほうが合格しやすい。実際、新治療の成績にΔ分の下駄をはかせた上で標準治療と比べているようなものである、と説明されることもある。ただし、ラインを下げすぎる(Δが大きすぎる)と、合格しても意味が薄くなる。
5. 結果の読み方:信頼区間の位置で5つのパターンに分かれる
具体例で見てみよう。以下は説明のための架空の例である。新薬と標準薬の奏効率の差(新薬 − 標準薬)の95%信頼区間を示している。非劣性マージンΔは10%とする。
| パターン | 差の95%信頼区間 | 通常の検定(差ゼロとの比較) | 非劣性(−10%との比較) |
|---|---|---|---|
| ① | +2% 〜 +9% | 有意に優れる | 成立 |
| ② | −4% 〜 +6% | 有意差なし | 成立 |
| ③ | −7% 〜 −1% | 有意に劣る | 成立 |
| ④ | −15% 〜 +9% | 有意差なし | 示せない |
| ⑤ | −14% 〜 −3% | 有意に劣る | 示せない |
下の図は、この表を絵にしたものである。横軸は「差」で、真ん中の黒い線が「0」(差なし)、左側の赤い点線が「−10%」(マージン)である。信頼区間は、この横軸の上にのる1本の棒で、四角い印が点推定値を表す。緑色の領域(赤い点線より右)に棒の全体がおさまっていれば、非劣性が成立する。

- 区間全体が「−10%」の線より右にあれば、非劣性が成立する(①〜③)
- 区間の左端が「−10%」の線を越えて左にはみ出していれば、非劣性は示せない(④⑤)
- 区間全体が「0」の線より右にあれば有意に優れ、左にあれば有意に劣る。「0」をまたいでいれば有意差なしである。
注目してほしいのは③と④
③(−7%〜−1%) は、区間が0をまたいでいない。つまり通常の検定では、新薬は有意に劣っている。それなのに、左端の−7%は−10%より右にあるので、非劣性は成立する。通勤ルートでいえば、「新ルートが確実に遅いことは確かだが、遅れは10分以内に収まっている」という状況である。矛盾しているのではなく、「劣っている」ことと「許容範囲を超えて劣っている」ことが別だからである。
④(−15%〜+9%) は、有意差なしである。しかし左端の−15%は−10%を越えているので、最悪の場合、15%まで劣る可能性を排除できない。非劣性は示せず、「差がある」とも「ない」とも言えない。これは前回のピンぼけ写真の状態である。
実際の論文ではどうか
非劣性試験の結果の読み方を整理した総説(Cuzick & Sasieni, Br J Cancer 2022)には、実際の試験の例が紹介されている。以下は同総説に基づく紹介である。
- 有意差なしだが、非劣性は成立した例(CARMENA試験):転移性腎細胞がんで、スニチニブ単独が、腎摘除術+スニチニブに劣らないかを調べた試験である。全生存のハザード比の95%信頼区間の上限が1.20を下回ることが非劣性の基準だった。結果はハザード比0.89(95%信頼区間 0.71〜1.10)で、有意差はなかったが基準は満たした(ハザード比のように「小さいほど良い」指標では、区間の下限ではなく上限を見る)。
- 有意に劣るのに、非劣性が成立した例(TARGIT-A試験):乳がんの術中放射線治療の試験で、5年局所再発の差の許容幅は2.5%だった。同総説によれば、結果はこの許容幅を満たしたが、通常の検定では術中放射線治療のほうが再発が有意に多かった。
6. 非劣性の落とし穴:マージンは「後から動かせないゴール」
6-1. マージンは試験の前に決める
サッカーの試合で、ゴールの位置を試合後に動かすことはできない。非劣性マージンも同じで、データを見てから決めてはいけない。試験の前に、臨床家・患者・研究者などで話し合い、計画書に根拠とともに書いておく。評価項目が重い(たとえば死亡)ほど、許容できる幅は小さくなるのが普通である。
この例えでわかること/限界
「あとから動かしてはいけない」という点がわかる。一方で、サッカーのゴールの位置は誰もが同じ寸法だと納得しているが、非劣性マージンは試験ごとに臨床的な判断で決める。そのため、位置そのものが妥当かどうかも、読者が吟味する必要がある。
臨床試験の報告ルール(CONSORT声明の非劣性・同等性試験への拡張)でも、非劣性マージンとその根拠、そして結果をマージンに照らして解釈することが求められている。
6-2. 優越性試験で有意差なしだったあとの「後付け」は禁止
優越性を示すつもりで計画した試験で有意差が出なかったあと、事前に非劣性マージンを定めていないのに「では非劣性でした」と結論づけるのは正しくない。後から決めたマージンは、結果に合わせた都合のよいものになりかねないからである。有意差なしの結果を「同等」や「非劣性」と言い換えること自体も、不適切な使い方として指摘されている。
6-3. マージンが広すぎると、非劣性は「あまり意味のない合格」になる
先ほどのTARGIT-A試験について、同総説は次の点を指摘している(以下は同総説の見解の紹介である)。許容幅2.5%は、試験の計画時に想定していた再発率(約6%)を前提にすると妥当に見えた。しかし、実際には標準治療群の5年再発率は約1%まで低かった。このように再発が少ない状況では、2.5%という許容幅は相対的にかなり大きな値になる。
ハンデが大きいほど勝ちやすいのと同じで、マージンを広げるほど非劣性は成立しやすくなる。マージンの大きさそのものを、臨床的に納得できるか吟味することが大切である。
この例えでわかること/限界
マージンが広いほど合格しやすい、という点がわかる。一方で、スポーツのハンデは勝ち負けの結果だけを変えるが、マージンが広いと「どこまで劣ってよいか」という臨床的な意味そのものが緩くなる。
6-4. 「標準治療に劣らない」と「何もしないよりよい」は別の話
非劣性は、あくまで標準治療との比較である。新治療が標準治療に少し劣っていた場合、そもそも「何もしないよりよいのか」も確認が必要になる。同総説は、この点を補うために、標準治療との比較とは別に、無治療に対する効果を保てているかを確認する基準も設けることを勧めている。
※コラム:ITT解析とPP解析とは?
ITT解析は、割り付けられた治療を最後まで受けたかどうかにかかわらず、割り付けられたグループのまま全員を解析する方法である。PP解析は、計画どおりに治療を受けた人だけを解析する方法である。優越性試験ではITT解析が「保守的」とされ、基本とされる。しかし非劣性試験では、計画から外れる人がいると2つのグループが似てきて差が小さく見えるため、非劣性が成立しやすくなる。このため、ITT解析とPP解析の両方で非劣性が成り立つことを求めるのが、1つの考え方として示されている。
7. 実際の解析はどう進むか
コードは使わずに、手順を言葉でたどる。
ステップ1:試験の前に決めておくこと
主要評価項目、非劣性マージンΔ(と、その臨床的な根拠)、解析対象集団(ITTとPPのどちらを使うか)、信頼区間の種類(通常は両側95%)を決める。症例数の計算も、非劣性の基準で行う。
ステップ2:差と信頼区間を計算する
新治療と標準治療の差(新治療 − 標準治療)と、その95%信頼区間を計算する。Rなどの統計ソフトで計算できる。入力は2群のデータ、出力は「差の推定値」と「信頼区間の下限・上限」である。
ステップ3:信頼区間の位置を見る
信頼区間の左端が−Δより右にあれば、非劣性が成立する。同時に、区間が0をまたぐかどうかも見て、通常の検定の結果(有意に優れる/有意差なし/有意に劣る)を確認する。
ステップ4:ITTとPPの両方で確認する
どちらの集団でも結論が同じかを確認する。食い違う場合は、その理由(脱落や計画違反の影響など)を考察する。
ステップ5:結果を両面から報告する
非劣性の結果に加えて、通常の検定の結果も併記する。③のように「有意に劣るが、非劣性は成立」という場合は、その旨を正直に書く。
よくある落とし穴
- 指標の向きを取り違える:「大きいほど良い指標」では区間の下限を、「小さいほど良い指標」(ハザード比や有害事象の割合など)では上限を見る。見る端を間違えると結論が逆になる。
- 信頼区間の水準を間違える:両側95%信頼区間は、片側2.5%の検定と対応する。解析計画で決めた水準を、事後に変えない。
- 有意差なしを「非劣性」と書いてしまう:マージンを事前に決めていないのに非劣性と書くのは誤りである。
8. 論文でそのまま使える例文(英文+日本語訳)
※以下の例文の数値(X%、Y%、信頼区間など)は、あくまで記述例である。実際の解析結果に差し替えて使うこと。なお、以下の結果例のX%とY%は、差が−3.0になる値(たとえばX=62.0、Y=65.0)に差し替えると、数値の整合がとれる。
8-1. Methods(方法)の例
The primary objective was to demonstrate that Drug A is noninferior to Drug B with respect to the response rate. The noninferiority margin was prespecified as 10 percentage points on the basis of [clinical rationale/previous studies]. Noninferiority was to be concluded if the lower limit of the two-sided 95% confidence interval for the difference in response rate (Drug A minus Drug B) was greater than −10 percentage points. The analysis was performed in both the intention-to-treat and per-protocol populations, and noninferiority was required to be met in both.
主要目的は、奏効率に関して、薬剤Aが薬剤Bに対して非劣性であることを示すことであった。非劣性マージンは、[臨床的根拠/過去の研究]に基づき、あらかじめ10パーセントポイントと設定した。薬剤Aと薬剤Bの奏効率の差(薬剤A − 薬剤B)について、両側95%信頼区間の下限が−10パーセントポイントより大きい場合に、非劣性と結論することとした。解析はITT集団とPP集団の両方で行い、両方で非劣性が満たされることを必要とした。
この文のどこに何が書いてあるか
1文目は「何を示したいのか」(目的)、2文目は「マージンの大きさと根拠」、3文目は「判定の基準」、4文目は「解析対象集団」を述べている。非劣性の論文では、特にマージンとその根拠を省略しないことが大切である。
8-2. Results(結果)の例:優越性は有意でなく、非劣性が達成された場合
The response rate was X% in Drug A and Y% in Drug B (difference, −3.0 percentage points; 95% CI, −8.0 to 2.0). The lower limit of the confidence interval was above the prespecified noninferiority margin of −10 percentage points; therefore, Drug A was considered noninferior to Drug B. Superiority was not demonstrated (the difference was not statistically significant).
奏効率は、薬剤AでX%、薬剤BでY%であった(差 −3.0パーセントポイント、95%信頼区間 −8.0〜2.0)。信頼区間の下限が、あらかじめ設定した非劣性マージンである−10パーセントポイントを上回ったため、薬剤Aは薬剤Bに対して非劣性であると判断した。優越性は示されなかった(差は統計学的に有意ではなかった)。
この文のどこに何が書いてあるか
1文目が結果の数値、2文目が非劣性の判定とその理由、3文目が「優越性(有意差)は示されなかったこと」である。非劣性は成立したが、「差がゼロ」「同じ」と書いているわけではない点に注意してほしい。結果の文章に「同等」「差がない」といった言葉を使わないことが、誤解を避けるコツである。
9. まとめ:明日から使える一言チェックリスト
- 「有意差なし」は「差がない証明」ではない(ピンぼけ写真)
- 非劣性は「差がゼロ」を示すものではない。「ここまでの劣りは許す」というラインを試験の前に決めて示す
- 判定は「差の95%信頼区間の下限 > −Δ」の1つの式で言い表せる(指標の向きに注意)
- 「有意に劣るのに非劣性」は矛盾ではない(劣ることと、許容範囲を超えて劣ることは別)
- マージンが広いほど非劣性は成立しやすい。マージンの根拠を必ず確認する
- 優越性試験の結果を、後から非劣性に言い換えない
10. 参考文献・おすすめ書籍
参考文献
- Altman DG, Bland JM. Absence of evidence is not evidence of absence. BMJ. 1995;311(7003):485. https://www.bmj.com/content/311/7003/485
- Piaggio G, Elbourne DR, Pocock SJ, Evans SJ, Altman DG; CONSORT Group. Reporting of noninferiority and equivalence randomized trials: extension of the CONSORT 2010 statement. JAMA. 2012;308(24):2594-2604. doi:10.1001/jama.2012.87802 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/1487502
- Cuzick J, Sasieni P. Interpreting the results of noninferiority trials—a review. Br J Cancer. 2022;127:1755-1759. doi:10.1038/s41416-022-01937-w https://link.springer.com/article/10.1038/s41416-022-01937-w
- Méjean A, Ravaud A, Thezenas S, et al. Sunitinib alone or after nephrectomy in metastatic renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 2018;379:417-427.(CARMENA試験。3の総説内の引用に基づく)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1803675
- Vaidya JS, Wenz F, Bulsara M, et al. Risk-adapted targeted intraoperative radiotherapy versus whole-breast radiotherapy for breast cancer: 5-year results for local control and overall survival from the TARGIT-A randomised trial. Lancet. 2014;383:603-613.(TARGIT-A試験。3の総説内の引用に基づく)https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)61950-9/fulltext
- ICH E9「臨床試験のための統計的原則」(1998年)、ICH E10「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」(2000年)
- 佐藤俊哉「非劣性試験に潜む問題点」PMDA科学委員会プラセボ部会資料(2015年5月8日)https://www.pmda.go.jp/files/000204955.pdf
- 丹後俊郎『新版 無作為化比較試験 デザインと統計解析』朝倉書店
おすすめ書籍
- 丹後俊郎『新版 無作為化比較試験 デザインと統計解析』朝倉書店
優越性・同等性・非劣性の考え方を、厳密さを重視して学べる一冊。この記事の「優越性」という言葉のズレについても、この本を読むとよくわかる。
用語ミニ辞典
- 優越性:新治療が標準治療より優れていること。厳密には臨床的に意味のある差を指すが、現在は有意差があれば優越性と呼ぶことが多い。
- 同等性:新治療と標準治療の差が、上にも下にも許容範囲に収まっていること。
- 非劣性:新治療が標準治療に対して、許容範囲を超えて劣っていないこと。
- 非劣性マージン(Δ):許容できる最大の劣りの幅。試験の前に決める。
- 帰無仮説:「本当は〇〇である」とあえて仮定する出発点の仮説。
- 信頼区間:母数(本当の値)を含む確率が95%になるように作った範囲。動くのは区間のほう。
- 検出力:本当に差があるとき、それを見つけられる確率。
- 第2種の過誤:本当に差があるのに、「差がある」と言えない失敗。
- ITT解析:割り付けられたグループのまま、全員を解析する方法。
- PP解析:計画どおりに治療を受けた人だけを解析する方法。
- 片側・両側:ラインを片方にだけ置くか、上下両方に置くか。非劣性は下側だけを見るので片側である。





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