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検定結果を見てからストーリーを決めてはいけない理由

後輩「先生、解析が終わりました。主要評価項目は有意になりませんでした……。でも、年齢×治療の交互作用だけp < 0.05でした!」
先輩「それはいい。じゃあ『高齢者でだけ効く治療』というストーリーで論文を書こう」

一見、よくある研究室の風景だ。しかし、この会話には大きな落とし穴がある。有意だった結果を見てから、ストーリーを決めているのだ。

これは、矢を放ったあとで、矢の刺さった場所に的を描くのに似ている。的の中心に当たるのは当たり前で、そこには何の腕前も示されていない。

この記事では、なぜ検定結果を見てからストーリーを作ってはいけないのか、そして今日から何をすればよいのかを、初心者向けに整理する。


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目次

この記事のポイント(先に結論)

  1. 仮説と主要解析は、データを見る前に決める
  2. 検定は「新たな発見」の道具ではなく、仮説の確認である
  3. 後から思いついた仮説は、「探索的」と明示すれば問題ない

検定の役割は「予定調和の確認」である

検定の結果で、研究のストーリーが決まるわけではない。ストーリー(仮説)は、データを見る前にすでにある。p値は、そのストーリーとデータがつじつまを合わせているかを確かめる、いわば確認作業にすぎない。

旅行にたとえてみよう。事前に宿を予約しておき、当日に「予約どおり部屋が用意されているか」を確かめるのが検定だ。予約なしで飛び込んだホテルに、たまたま空室があったとしても、それは次も再現できる成功とは限らない。

その意味で、検定は予定調和である。仮説が先にあり、検定はそれを確認する。検定の段階で、仮説にない「新たな発見」が生まれるわけではない。

ただし、ここでいう予定調和とは、「ストーリーが先に決まっている」という意味であって、「結果が仮説どおりに決まっている」という意味ではない。仮説が支持されないこともある。そのときは、有意にならなかったことを、そのまま報告すればよい。

※コラム①:p値とは何か
p値とは、「もし本当は差がない(帰無仮説が正しい)としたら、今回のようなデータ、あるいはもっと極端なデータが得られる確率」のことだ。「仮説が正しい確率」ではない。また、p値の大小で効果の強さを語ることもできない。強さを示すなら、効果量や信頼区間を使う。p値の誤用への注意は、米国統計協会(ASA)も2016年に声明として示している(Wasserstein & Lazar 2016)。


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なぜ「後付け」がいけないのか

くじを何度も引き直す問題

有意水準を5%とした検定は、本当は差がない場合でも、1回の検定あたり5%、つまり20回に1回ほどの割合で「有意」と出る。つまり、検定を何度も行えば、どこかで偶然に有意になる。

Simmonsらは2011年、研究者が持つ「解析の自由度」(researcher degrees of freedom)が偽陽性を大きく増やすことをシミュレーションで示した。たとえば次のような選択だ。

  • 有意でなかったので、症例を追加してもう一度検定する
  • 複数の評価項目のうち、有意だったものだけを報告する
  • 年齢や性別などでサブグループに切り分けて、有意なところを探す
  • 外れ値の除外や共変量の入れ方を変えて、有意になる組み合わせを選ぶ

このような選択を重ねると、見かけ上の偽陽性率は5%を大きく上回る。Simmonsらのシミュレーションでは、論文で扱った4種類の選択を、すべて有利な方向に使った最悪の場合、偽陽性率は約6割にまで上がると報告されている。くじを何度も引き直して「当たった」と報告しているようなものだ。

HARKing:結果を見てから、最初からあった仮説にする

Kerr(1998)は、結果を見てから作った仮説を、最初から立てていた仮説であるかのように報告する行為を、HARKing(Hypothesizing After the Results are Known)と名づけた。

冒頭の会話の続きを見てみよう。「高齢者でだけ効く治療」は、論文の序論で「我々は高齢者で効果が高いと予想した」と書かれてしまう。これがHARKingだ。読者は、これが事前の仮説の検証だと誤解する。

※コラム②:HARKingとp-hackingの違い
HARKingは「結果に合わせて仮説を変える」こと。p-hackingは「有意になるように解析を変える」こと。方向は違うが、どちらも「結果を見てから決めたことを、事前に決めたように見せる」点で共通している。


では、探索的解析は悪なのか?

いや、悪ではない。探索的解析は、新しい仮説を生む大切な作業だ。Kerrも、データを見て新しい仮説を考えること自体は、科学の正当な営みであると区別している。

問題は、探索を検証であるかのように見せることだ。後から思いついた仮説を、「探索的」「事後的」と明記して報告すれば、それは誠実な報告になる。

検証(confirmatory)探索(exploratory)
目的事前の仮説が正しいかを確かめる新しい仮説の種を見つける
仮説・解析の決定データを見る前データを見たあとでもよい
p値の意味事前に定めた基準で、仮説を確認する参考値(結論にはしない)
報告の仕方結果にかかわらず、計画どおりに報告する「探索的」と明記する
次のステップ結論として報告する新しい研究で検証する

ICH E9(臨床試験の統計的原則)も、検証的な試験と探索的な試験を区別して扱っている。ICH E9は臨床試験向けの指針だが、検証と探索を分けるという考え方は、観察研究でも同じように使える。


今日からできる実務の対策

1. 解析の前に、これだけは決めておく

  • 研究の仮説(何を明らかにしたいか)
  • 主要評価項目(何で効果をみるか)
  • 主解析の方法と検定方法
  • 有意水準
  • 解析対象集団(誰を解析に含めるか)
  • 欠測データの扱い
  • 主要評価項目が複数ある場合の、多重性の調整方法

ICH E9は、主要な解析の方針を事前にプロトコルに記載すること、また詳細な統計解析計画書(SAP)を、データ解析の開始前(盲検試験では盲検解除前)に確定することを求めている。

2. 事前登録を活用する

研究の計画をあらかじめ公開しておく方法もある。臨床研究であれば、UMIN-CTRやClinicalTrials.govへの登録がこれにあたる。登録時点の計画と論文の内容が一致しているかを、第三者が確認できるからだ。

※コラム③:事前登録は「縛り」ではなく「守り」
事前登録は、研究者を縛るためのものではない。結果が思わしくなかったときでも、「計画どおりに行い、誠実に報告した」と示せるための、研究者自身の守りになる。

3. 既存データの解析(後ろ向き研究)の場合

すでに集まっているデータを解析する研究では、「事前登録」を使いにくいことがある。その場合でも、次の工夫ができる。

  • データの中身(結果)を見る前に、仮説・主解析・解析対象集団を文書にまとめ、日付を記録しておく
  • その文書を、共同研究者や指導者と共有しておく(メールの送信記録でも、日付の証拠になる)
  • 論文には、「解析計画はデータの確認前に作成した」と書ける範囲で書く。書けないところは、正直に「探索的」と書く

データを見てしまった後では、「事前に決めた」とは言えない。そのときは、無理に事前の仮説だったと書かず、探索的として報告するのが誠実な方法だ。

4. 結果を見たあとの解析は、すべて「探索的」と書く

計画になかった解析を行ってもよい。ただし、論文では「探索的解析」「事後解析(post hoc)」と明記する。これだけで、報告の信頼性は大きく変わる。


そのまま使える例文集

数値や項目は [ ] の穴埋め形式にしてある。自分の研究に合わせて書き換えて使ってほしい。実際に解析していない数値を、本物らしく書き込んではいけない。

例文1:解析計画を事前に定めたことを示す(Methods・英文)

使う場面:検証的な研究のMethodsで、解析方針を事前に決めたことを示すとき。

The statistical analysis plan, including the primary endpoint, the primary
analysis method, and the significance level, was prespecified before data
analysis [and registered at [registry name] (identifier: [ID])].
The primary analysis was [analysis method] with a two-sided significance
level of [α].

例文2:探索的解析を明示する(Methods・英文)

使う場面:計画になかった解析を行ったとき。

The following analyses were not prespecified and were performed
post hoc as exploratory analyses: [analysis description].
These results should be interpreted as hypothesis-generating
and require confirmation in future studies.

例文3:探索的な結果を報告する(Results・英文)

使う場面:事後的に行った解析の結果を載せるとき。

In an exploratory analysis, [outcome] differed between [subgroups]
([effect size, 95% CI]). Because this analysis was not prespecified
and no adjustment for multiplicity was made, the result should be
interpreted with caution.

注意:「no adjustment for multiplicity was made」は、実際に多重性の調整をしていない場合にだけ使う。調整した場合は、その方法に書き換えること。

例文4:後から得られた仮説を述べる(Discussion・英文)

使う場面:予想外の結果を考察するとき。仮説は「事後に得られたもの」として控えめに書く。

Although the primary analysis did not show a significant difference,
an exploratory analysis suggested a possible [effect] in [subgroup].
This finding is hypothesis-generating rather than confirmatory,
and warrants investigation in a prospectively designed study.

例文5:研究計画書・解析計画書の日本語例

使う場面:研究計画書、SAPの解析方法の項目。

主要評価項目は[評価項目]とし、主解析は[解析方法]を用いて、両側有意水準[α]で検定する。
解析方法および解析対象集団は、データの確認前に本計画書で規定する。
計画書に規定しない解析は、探索的解析として報告し、結果の解釈は慎重に行う。

まとめ:投稿前のチェックリスト

  • 仮説と主解析は、データを見る前に決めたか
  • 行った検定の数と、報告している検定の数は一致しているか
  • 後付けの解析には、「探索的」「事後」と明記したか
  • 主要な解析が有意でなくても、そのまま報告したか
  • 評価項目が複数ある場合、多重性の扱いを決めて書いたか
  • p値を、効果の強さの指標として使っていないか(効果量と信頼区間を併記したか)
  • 序論の仮説は、計画時の仮説と一致しているか

検定の結果で、ストーリーは決まらない。ストーリー(仮説)が先にあり、p値はそれを確認するだけだ。そして、確認の外で見つけた発見は、「探索的」と胸を張って報告すればよい。


参考文献

  1. Kerr NL. HARKing: Hypothesizing after the results are known. Personality and Social Psychology Review. 1998;2(3):196-217. doi:10.1207/s15327957pspr0203_4
  2. Simmons JP, Nelson LD, Simonsohn U. False-positive psychology: undisclosed flexibility in data collection and analysis allows presenting anything as significant. Psychological Science. 2011;22(11):1359-1366. doi:10.1177/0956797611417632
  3. Wasserstein RL, Lazar NA. The ASA’s statement on p-values: context, process, and purpose. The American Statistician. 2016;70(2):129-133. doi:10.1080/00031305.2016.1154108
  4. ICH Harmonised Tripartite Guideline. Statistical Principles for Clinical Trials (E9). 1998. (CPMP/ICH/363/96) https://tga.gov.au/sites/default/files/2024-12/statistical_principles_for_clinical_trials.pdf

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第1章:臨床研究ではなぜ統計が必要なのか?計画することの重要性
  • 推定ってどんなことをしているの?
  • 臨床研究を計画するってどういうこと?
  • どうにかして標本平均を母平均に近づけられないか?
第2章:研究目的をどれだけ明確にできるのかが重要
  • データさえあれば解析でどうにかなる、という考え方は間違い
  • 何を明らかにしたいのか? という研究目的が重要
  • 研究目的は4種類に分けられる
  • 統計専門家に相談する上でも研究目的とPICOを明確化しておく
第3章:p値で結果が左右される時代は終わりました
  • アメリカ統計協会(ASA)のp値に関する声明で指摘されていること
  • そうは言っても、本当に有意差がなくてもいいの…?
  • なぜ統計専門家はp値を重要視していないのか
  • 有意差がない時に「有意な傾向があった」といってもいい?
  • 統計を放置してしまうと非常にまずい
第4章:多くの人が統計を苦手にする理由
  • 残念ながら、セミナー受講だけで統計は使えません。
  • インプットだけで統計が使えない理由
  • どうやったら統計の判断力が鍛えられるか?
  • 統計は手段なので正解がないため、最適解を判断する力が必要
第5章:統計を使えるようになるために今日から何をすれば良いか?
  • 論文を読んで統計が使えるようになるための5ステップ
第6章:統計を学ぶために重要な環境
  • 統計の3つの力をバランスよく構築する環境

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この記事を書いた人

医師、医学博士(専門は疫学および統計学)。10年以上の研究歴を有し、筆頭著者として10本の英文原著論文を執筆した実績を持つ。現在、外資系製薬企業にて15年以上にわたり、臨床開発やデータ解析、承認審査、薬価交渉戦略といった実務の最前線に従事。

「統計に悩むあなたを救いたい」をコンセプトに、ブログ「統計ER」やYouTube、SNSを通じて、医療従事者や研究者向けに「実務直結の統計ノウハウ」を配信。

学術的な厳密さと、製薬業界での高度な実務経験を融合させた独自の視点から、ブラックボックス化しない統計解析の普及を目指す。オンラインショップ「TKER SHOP」での計算ツール提供や、クラウドワークス等を通じた統計コンサルティング・解析代行(主にRを使用)も幅広く展開中。

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