統計学の最終的なゴールは2つありました。
1つ目は、得られたデータに対する知見を得ること。
2つ目は、得られたデータ(標本)から、データ全体(母集団)を推定すること。
この2つが重要でしたね。
今回の記事では、この2つ目に関係することです。
「一般化可能性」もしくは「外的妥当性」と呼ばれる概念を理解しましょう。
この概念を理解できれば、「なぜこのデータを解析しているんだろう?」というのがおぼろげながら見えてきますよ!
一般化可能性(外的妥当性)とは?
まずは一般化可能性に関して、ICH E9での定義を確認します。
ちなみに一般化可能性を英語でいうと、Generalisabilityです。
臨床試験で得た知見を、その試験に参加した被験者からより広い患者集団とより広い医療現場へ外挿することが信頼をもってできる程度
なんとなくわかるような、でもぼんやりとしか理解できないので、例を用いて確認しましょう。
一般化可能性(外的妥当性)を例でわかりやすく知る
例えば、糖尿病患者さんを例に、標本と母集団を考えます。
糖尿病患者さんというと、大きく分けて1型糖尿病と2型糖尿病に分かれます。
そして、ある薬の第III相試験が「2型糖尿病患者さん」を対象にして実施されていたとします。
その場合に、その薬は1型糖尿病患者さんにも投与できる薬でしょうか?
答えは「No」ですね。
第III相試験ではあくまで、2型糖尿病患者さんへの効果を示すことができた、ということです。
1型糖尿病患者さんが組み入れられていなかったのであれば、1型糖尿病患者さんに対するその薬の効果は全くわからない、ということになります。
別の言い方をすると、その第III試験の結果は、2型糖尿病患者さんまでしか一般化できないということです。
このように、どこまでその結果を一般化できるか?という概念を一般化可能性と呼びます。
一般化可能性は、外的妥当性とも呼ばれます。
その試験から得られたデータを、データが取られていない患者(外側の患者)にまで適用すること、なので外的妥当性と呼びます。
一般化可能性(外的妥当性)の確認:結果をどこまで一般化できるか?
では、この一般化可能性(外的妥当性)に関して、論文ではどこを確認すればよいでしょうか。
それは、被験者背景です。
この被験者背景のデータは、論文を読む上で、非常に重要です。
例えば、被験者背景ではこれらを確認する必要があります。
- 年齢はどのような範囲か
- 疾患の重症度はどうか
- 既往歴や前治療歴はどうか
- etc
このようなことを把握することで、どの被験者に対する試験結果なのか、そして、どの母集団に対する推定をしているのか。
これを把握できるようになります。
18-50歳を対象にした試験結果と、40-70歳を対象にした試験結果を比較してはいけません。
なぜなら、対象となる母集団が違うからです。
この違いは極端に言うと、がん患者に対する試験結果なのかリウマチ患者に対する試験結果なのかということと同じ議論をしていることと同義だからです。
私は論文を読む時も論文を書く時も、まずはPICO/PECOを整理することから始めるということを、お伝えしています。
この時にPであるPatientをかなり具体的にすることが、一般化可能性を考える上で重要なことになります。
一般化可能性(外的妥当性)を保証できる方法がランダム抽出
一般化可能性を保証する方法が、ランダム抽出です。
ランダム抽出とは、母集団全体から、標本をランダムに抽出すること。
例えば先ほどの2型糖尿病患者さんの例であれば、日本全国の2型糖尿病患者から、第III相試験に入る患者をランダムに決めます。
そうすることで、一般化可能性を保証することができます。
ですが、このようなランダム抽出は、臨床試験ではほとんど不可能です。
というのも、臨床試験をやるにはプロトコルにある検査が全て実施できる病院でないといけませんし、臨床試験を実施する人手にも限りがあるからです。
そのため、ランダム抽出はできないまでも、意識的に、様々な患者さんが入るように計画することが必要です。
例えば、このようなことを考えます。
- 大病院だけでなくクリニックも試験に入れる
- 年齢が偏らないようにする
- 男性だけでなく女性も入れる
- 先進国だけでなく、発展途上国も入れる
そうすることで、一般化可能性をできる限り保証するようにします。
一般化可能性(外的妥当性)に関するまとめ
「その試験結果は、どの母集団に対する試験結果なのか?」を意識することが重要です。
それを把握するために、医学論文を読む際には被験者背景を確認してください。
被験者背景を確認することで、その論文の結果がどこまで一般化できるのかという一般化可能性(外的妥当性)を確認することができます。
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