医学研究の研究方法として、前向き研究、後ろ向き研究があります。
これらの研究はそれぞれどのような方法なのでしょうか。
この記事では、前向き研究、後ろ向き研究に違いについてわかりやすく説明していきます。
結論から言ってしまうと、前向き研究と後ろ向き研究は、時間的な向きを指します。
前向き研究は現在以降のデータのみを用いる研究、後ろ向き研究は現在よりも過去のデータを含んだ研究です。
ではそれぞれどんな研究例があるのかをお伝えしますね。
前向き研究と後ろ向き研究と横断研究の違いは?
まず、「前向き研究」「後ろ向き研究」「横断研究」の3つの研究について、図に示しておきます。
下記のようなデータの取得方法の違いによって、定義されています。
現在を起点として、
- 現在より未来のデータを用いる研究は前向き研究
- 現在よりも過去のデータを含んだ研究は後ろ向き研究
- ある時点の1時点のみのデータを用いるのであれば横断研究
という、かなりシンプルな定義です。
前向き研究とは例えばどんな種類がある?メリットとデメリットは?
前向き研究は現在以降のデータのみを用いる研究を指します。
医薬品開発では必ず実施されるランダム化比較試験(RCT)は前向き研究の代表的な試験ですね。
その他にも、コホート研究も前向き研究の一つとして数えられることがありますが、「後ろ向きコホート研究」という研究もあるように、研究の種類によって前向きか後ろ向きかが決まるわけではありません。
繰り返しになってしまいますが、「現在以降のデータのみを用いる研究」が前向き研究です。
前向き研究の例は?
例えば、ある食品の摂取がガンのリスクと関係があるかを前向き研究によって調査するとします。
前向き研究では、ある食品をよく食べる集団と、ほとんど食べない集団を、長期にわたって追跡します。
そして、将来的にガンになるかどうかを評価します。
この方法で適切に標本となる集団を選択していれば、選択バイアスもかからず、リスク比のも評価できるというメリットがあります。
しかし、将来どうなるかを追跡するには、非常に長い時間がかかり、長い期間を追跡するには大きなコストを必要とするというデメリットがあります。
また、難病などの限られている症例では、将来どうなるかの予測はつかないため、前向き研究では十分なサンプル数を得ることができません。
バイアスやリスク比は以下の記事でも解説しています。
>>>>バイアス(偏り)の種類は?医療統計学で重要な3種類をわかりやすく
>>>>オッズ比とは?わかりやすく相対危険度(リスク比)との違いを簡単に解説!
後ろ向き研究とはどんな例がある?メリットとデメリットは?
一方で、現在よりも過去のデータを含んだ研究を、後ろ向き研究と呼びます。
例えば、ある食品の摂取がガンのリスクと関係があるかを後ろ向き研究によって調査するとします。
前向き研究では、ある食品をよく食べる集団と、ほとんど食べない集団を、長期にわたって追跡しました。
一方の後ろ向き研究では、ガンになった集団と、ガンにならなかった集団で、ある食品の摂取頻度に違いがあったかを調査します。
上記の研究は、後ろ向き研究の中でも「ケースコントロール研究」という種類の研究です。
後ろ向き研究は、すでに取得されている過去のデータを調査するので、データがあれば非常に簡単に行うことができるというメリットがあります。
また、難病などの限られた症例しかない場合は、後ろ向き研究であれば十分なサンプル数を揃えることができるため、後ろ向き研究が重要な手段となります。
しかし後ろ向き研究では、リスク比は相応しくなくオッズ比で考える必要があるなど、解析にも制約が出てくるため非常に解釈が難しい研究でもあります。
後ろ向き研究と前向き研究がどっちを選ぶべき?
コストやサンプル数などの条件が許すのならば前向き研究を選択するのが良いです。
何故なら一般的に、前向き研究の方が後ろ向き研究よりも信頼性が高いからです。
その理由は、後ろ向き研究は選択バイアスが入る余地があるため。
イメージとしては後出しジャンケンをイメージしてください、
すでに相手の手が出ていると、自分に都合の良い手を出すことができすよね。
同様に後ろ向き研究でも、自分に都合のいいように、統計手法などを変えることができてしまします。
上のような恣意的な操作でなくても、選択するサンプルの特性などによって、
バイアスによる間違った結果を生むというデメリットが後ろ向き研究にあります。
前向き研究で重要なのは、綿密な研究計画を必要とすること。
前向き研究では前もって解析や統計手法を決めておく必要があり、後から修正することは原則許されていません。
(盲検化されている試験中であれば統計解析計画書(SAP)のアップデートが許されています)
そのため、前もって徹底した準備が重要となります。
コストやサンプル数の問題がある場合、後ろ向き研究も強力な手法。
しかし、後ろ向き研究では、選択バイアスが常に存在するため、前向き研究ほど結果を信頼することはできません。
そのため、後ろ向き研究を行うときや、結果を解釈するときは選択バイアスがないことをよく注意する必要があります。
後ろ向き研究の注意点を例で考える
先ほど挙げた、食品の摂取がガンのリスクと関係があるかを後ろ向き研究を例に考えます。
ある地域ではガンの罹患率が他の地域よりも低かったとします。
後ろ向き研究の結果、ガンの罹患率が低い地域では、ある食品の摂取頻度が他の地域より有意に多かったとします。
この結果から、ある食品を高頻度に摂取することが、ガンの罹患率を低下させるも解釈することはできます。
この解釈には注意が必要です。
理由は、地域よって風土や遺伝、食文化が異なる可能性があり、別の要因が存在し、食事は疑似相関である可能性があるからです。
疑似相関については
>>>>論文での統計手法や統計結果の書き方は?多重比較や過剰解釈には要注意
でも解説しています。
前向き研究と後ろ向き研究まとめ
現在より未来のデータのみを用いる研究を前向き研究といいます。
前向き研究は選択バイアスを生じさせにくいですが、多大の時間とコストが必要です。
一方、現在より過去のデータを含んだ研究は後ろ向き研究と呼びます。
症例数が限られた難病などの研究に有用な方法ですが、選択バイアスを含むため、疑似相関などによる拡大解釈を気をつける必要があります。
コメント
コメント一覧 (3件)
[…] 研究デザインは、大きく分けて「前向き研究」と「後ろ向き研究」に分けることができます。 […]
[…] 日々多くの質問をいただいているのですが、最近は「後ろ向き研究でもサンプルサイズ計算は必要でしょうか?」という質問をよくいただきます。 […]
[…] 後ろ向き研究であれば、群間で背景情報が偏っていることはむしろ普通かなと思いますが、それでも統計学的検定を実施してP値を示すことはしていません。 […]